April 15, 2023

うとる。

うとる。あれも酔狂な男じゃった」

 高杉の言葉に桜司郎は少しだけ目を見開く。その縁で、あの日高杉は藤の家に居たのかと思った。 高杉は視線を掛け軸から桜司郎へ向ける。

「僕は、君に桜之丞の影を見出しとる。月經血塊 どうも他人とは思えんのじゃ」

 今こそ秀才と持て囃されている高杉だったが、子どもの頃は勉強が嫌いでよく逃げ出していた。そこへ旅人だった桜之丞と出会い、知識を蓄えることの必要性を説かれる。身分に甘んじ、学を疎かにするものは必ず足元をすくわれる日が来ると。

 それをきっかけに、藩校である明倫館へ入り、やがて松下村塾の門を叩いた。

 桜之丞は松陰ほど影響を与えてはいないにしろ、忘れることは出来ない人物だった。

「ほんまに関係ないんか……?」

 高杉の言葉に、桜司郎は困惑の色を瞳へ浮かべた。自分で色々と思ったことはあったが、他人からはっきりと桜之丞について言われたのは初めてである。ごくりと生唾を飲み込んだ。

「か、関係ないですよ。私は私です……。そもそも性別だって違うじゃないですか」

 桜司郎は何処か傷付いたような表情だった。それを見た高杉はハッとする。

「……ほうか。ほうじゃのう、桜花は桜花じゃった。すまん」

「いえ……」

 桜之丞の影に触れる度に、"桜花"である自分の存在がどんどん薄れていく。そんな気がして苦しかった。きっと、高杉が初めから親切だったのも、桜之丞のお陰なのだろう。

 そう思った途端に居心地の悪さを感じた。を見てくれる新撰組の元へ帰りたいと、寂しさと切なさが込み上げる。

「高杉さん、私……。京へ帰りたいんです。二度も助けてくれたことは有難いと思っています。ですが、」

「桜花、萩の海はどうじゃった」

 高杉は桜司郎の言葉を遮った。慈しむような視線に、桜司郎は戸惑う。

「綺麗、でした。とても……」

「ほうじゃろう。じゃけど、幕府の連中はこの萩を、この長州を潰そうとしちょる。君が戻ろうとしちょるんは、そねえな組織じゃ」

 桜司郎は視線を彷徨わせた。確かに此度の長州訊問使は二回目の長州征討前の最終通告のようなものである。決裂したという話だけは聞いていた。恐らく、そう遠くないうちに戦が始まるのだろう。

 柔らかい西陽が部屋に差し込み、高杉の横顔を照らした。

「僕はのう。ただ、長州が好きなんじゃ。僕だけじゃのうて、栄太も、久坂も、伊藤も。皆この国が好きじゃ。じゃけえ、降り掛かる火の粉は払い除けるし、必要あらば噛み付きに行く」

 同じを見てくれる新撰組の元へ帰りたいと、寂しさと切なさが込み上げる。

「高杉さん、私……。京へ帰りたいんです。二度も助けてくれたことは有難いと思っています。ですが、」

「桜花、萩の海はどうじゃった」

 高杉は桜司郎の言葉を遮った。慈しむような視線に、桜司郎は戸惑う。

「綺麗、でした。とても……」

「ほうじゃろう。じゃけど、幕府の連中はこの萩を、この長州を潰そうとしちょる。君が戻ろうとしちょるんは、そねえな組織じゃ」

 桜司郎は視線を彷徨わせた。確かに此度の長州訊問使は二回目の長州征討前の最終通告のようなものである。決裂したという話だけは聞いていた。恐らく、そう遠くないうちに戦が始まるのだろう。

 柔らかい西陽が部屋に差し込み、高杉の横顔を照らした。

「僕はのう。ただ、長州が好きなんじゃ。僕だけじゃのうて、栄太も、久坂も、伊藤も。皆この国が好きじゃ。じゃけえ、降り掛かる火の粉は払い除けるし、必要あらば噛み付きに行く」

 同じ

Posted by: Watts23 at 10:18 AM | No Comments | Add Comment
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April 06, 2023

「そんな目で

「そんな目で……あたしを見るんじゃないよッ」

「おいッ!止めねえか!」

尚も掴み掛かろうとする琴の腕を土方は押さえ付ける。

「歳三さま、動態紋 離してッ!」

「俺を叩くなら話が分かるが、関係ねェ奴まで巻き込むのはお門違いだろう!」

 何とか振りほどこうと藻掻くが、土方はびくともしなかった。鍛え上げている男と女とでは力の差は歴然である。

わなわなと怒りと嫉妬に身体を震わせながら、琴は顔を赤くした。

「ねえッ。あんた、女子の癖に色小姓の真似事なんてして、歳三さまに取り入ろうだなんて恥ずかしくないのッ!?」

 色小姓、つまり男の振りをして肉体関係を結んでいると言いたいのだろう。

余りにも品の無い直接的な侮辱に桜司郎は拳を握った。苦悩の末の覚悟すら非難されているようで悔しかったのだ。

「お琴さん、それ以上うちの隊士を侮辱するようなら俺も黙っちゃいねえぞ。泣く子も黙る新撰組に女がいるなんて、局長や俺の目が節穴だと言いてえのか」

 なあ、と同意を求めるように土方は桜司郎を見遣る。

 だが桜司郎の顔色は良くなかった。何処か泣き出してしまいそうな、心細さすら感じる表情に、琴の腕を掴む土方の手が緩む。

 その隙をついた琴は逃れると、桜司郎の胸元へ飛び込んだ。突然のそれに不意をつかれた桜司郎は後ろへ倒れ込み、琴が馬乗りになる形になる。そして襟元をグッと掴むと左右に開いた。

 すると、膨らみを押さえ込むように巻かれた晒しが白日の下に晒される。勢いよく掴んだために晒しが弛み、それが分かるようになっていた。

「……ほら、歳三さまッ。これを見ても男だと仰いますか!」

 桜司郎は目を見開くと、琴を突き飛ばして立ち上がった。そして い交ぜになり、桜司郎は俯いて顔を歪めた。

「お前……おんな、なのか」

 土方は驚愕に満ちた表情で桜司郎を見る。

 それを見た琴はしてやったり顔で土方を見た。振られた腹いせに、土方に何らかの復讐をしたかったのである。小間物屋で二人のやり取りを見た時は、わざと男の格好をさせて隣に置いているものだと思っていたが、まさか気付いていないものとは知らなかったのだ。

色んな男たちから言い寄られる立場の自分を振った男の、済ました顔を破ったことに充足感を得る。

 琴は身体を震わせて、笑みを浮かべた。虚しさと共に笑いが込み上げてくる。

「……あは、あははっ。ふふ。ああ、可笑しい。歳三さまの目は節穴という事が分かりましたわ。では、どうか息災で」

 そう言い、立ち上がると砂を払い落とす。そして優雅に袖を返して琴は去っていった。 取り残された二人の間には沈黙が流れた。桜司郎は無言で着物を整える。

「お前……本当に、女なのか」

 土方の僅かに震える声が酷く冷たく鼓膜に響いた。心地よい春の陽気だというのに、まるで冬へ逆戻りしたかのような感覚に身震いをする。

「俺らを っていたのか。……ああ、クソッ。こんな事、近藤さんに何て言えば」

「申し訳、ございません……」

 頭を抱える土方に対し、謝罪の言葉しか紡げなかった。言い訳すら思い浮かばない。まるで深い湖の底に沈められたかのように、息が苦しかった。

 脳裏には沖田との約束が浮かぶ。まさかこの様な形で露呈することになるとは夢にも思っていなかった。守れなかったことの悔しさと悲しさで目頭が熱くなる。だが、泣いたら駄目だと自分に何度も言い聞かせた。

「取り敢えず、試衛館に帰る。話はそれからだ」

Posted by: Watts23 at 08:41 AM | No Comments | Add Comment
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