July 25, 2021

「倫子は悪くない!」

「倫子は悪くない!」

一言、断言され、その後、倫也は無言で、倫子もお姫様抱っこが恥ずかしいので顔を隠して小さくなっていた。

 

駐車場に着くとゆっくりと降ろされて、後部座席のドアを開けられた。

来る時は助手席だったので目を丸くした。

 

「……怒ってる?」

オドオドと聞くと倫也が破顔した。

 

困った顔と嬉しそうな顔と悲しそうな顔、複雑な表情を見せていた。

 

「それは俺が聞きたいよ、倫子。怒ってる?倫子の前であんな事。だから倒れたんじゃないのか?」

「ううん、怒って…ないよ。ごめん、乗るね。」

そのまま乗り込もうとしたのは、倫也の言ってる事があながちハズレでもないからだ。

「病院行くから横になって。安全運転するからね。」

それで後ろ…と思い、前がいいなと口ずさんだ。

 

「横になってた方がいいよ。診てもらうまで。」

「でも、車でしょ?きちんと座って固定された方が安全じゃないかな?横になってもお腹揺れるし…。腰にくるし。」

 

身体を離されて目を見て言われて、倫子も倫也の目をジーっと見て言った。

 

「一理ある……よし!ゆっくり移動、腰にクッション置くからそれで座って。手で引っ張ってもいいから、上めでシートベルトするよ。」

 

手を引いて後部座席から出て、助手席に乗り込むと、倫也が手を引いてくれて優しくシートベルトを着けてくれた。

 

妊婦のシートベルトは、交通安全上推奨されているが産気づいた時などの搬送では免除を認められている。

今は固定という考えで言えば、腰部分にクッションを当ててお腹と胸の間にシートベルトを置くのは赤ちゃんを守るには最善と言えた。

 

 

運転席に乗り込んだ倫也に倫子は思い切って聞く。

 

「倫也さん、あの人、誰?」

「ん?あぁ、笹川華江さん。母の家、池上の分家、池上の祖父さんの妹が嫁いだ家の息子の娘。」

「絹ちゃんのお父さんの妹さんの?」

「子供の子供。」

 

(ややこしや!)

 

という顔で倫子が考えている間に車は動き出した。

地下駐車場から坂道をゆっくりと登ると眩しい光が射し込んだ。

 

「絹ちゃんのいとこの子供と覚えておけば間違いないよ。昔から家には良く顔を出してたんだ。俺も家を出たし、向こうも海外留学して気に入ってそのまま住んでるから帰って来て顔を見たのも何年振りかって感じだ。結婚式にも外国からは悪いから招待状も出してない。悪いけど俺は苦手な部類でね。昔から避けてる。だからごめんな、倫子。昔の俺なら抱き付かれたと同時に身体を引き離してる。倫子がいるのに咄嗟に動けなくて悪かった。怒らないで欲しい。」

 

チラッと見て話す姿が可愛らしく見えて、倫子は微笑んだ。

 

「怒ってないってば。安全運転、お願いしますね?お父さん。」

ポンポンと太腿の辺りを軽く叩いて言うと、嬉しそうに倫也は返事をしてくれた。

ーーあの日、病院では何事もなく、軽い脳貧血と言われて、即帰宅して安静にという倫也を説得し、実家に寄ってから帰宅した。

 

真っ直ぐに帰るのも嫌だったのも少しはあった。その後は忘れようと気にしないでいようと倫子は何も聞いたりはしなかった。

 

 

楽しみにしていたホテルに足を踏み入れて、初めての体験にドキドキと胸を高鳴らせ、かっこいい倫也にエスコートされ、キチンとした制服の男性に荷物を預けて案内されて、エレベーター前に移動していた。

 

入り口、ロビーと呼ばれるそこは二階のバルコニーの様な場所が見える吹き抜け。

吹き抜けというか、ワンフロア全部が三階まで真ん中をくり抜いた様な状態で目を奪われた。

三階部分の廊下に行くと上に飾られている豪華な装飾の電燈が近くで見られるらしい。それもとても綺麗で名物のひとつなのだと、エレベーターの中で案内してくれるホテルマンが話してくれた。

 

 

高級な洋服に身を包み、身重じゃない時に来たかったとも思うが、同時にお腹の子と三人で来られて嬉しいとも思う。

興奮でうわー、うわっ!しか言わない倫子に、案内係のホテルマンもクスッと笑い、申し訳ありません、と倫也に謝る。

 

「いや、笑顔で受け入れて頂いてありがたいです。私も妻も…なかなか、こういう場所には来る機会がないものですから…。」

倫也の返答に倫子は腕に置いていた手にぎゅっと力を込めた。

 

(倫也さんは慣れてるでしょ?外国のお客様、ここに泊まってて、ロビーとかバーで会った事あるって言ってたもん。)

 

エレベーターはホテルの中が見える様になっている物と、外が見える様になっている物があり、ホテル内が見えるエレベーターは一階から三階まで、主に食事などをしに来たホテル利用者用。

倫子が乗ったのは宿泊者用の外が見えるタイプで、エレベーターがまるで遊園地のアトラクションみたいで、倫子は外に釘付けになっていた。

 

かなり上まで行くなぁ、なんて暢気に考えて外を見ているとエレベーターが止まった。

 

ポーンという音がすると、振り向いて扉を真っ直ぐに見る。

ホテルマンが扉を押さえてくれている前を軽く会釈して通り過ぎると、目の前に大きなエレベーターホールが広がり、離れた正面の壁に大きな絵が飾られていた。

 

(うわっ!これ…よく分かんないけど……きっとウン百万もするに違いない!)

 

と離れた場所から停止して見惚れていると倫也に腕をくいっと引かれた。

 

「こっちだよ。降りたら左、いいね?」

「迷子になると思ってるわね?」

恨めしそうに見上げると倫也もホテルマンもくすくすと笑っていた。

 

 

Posted by: Watts23 at 04:07 PM | Comments (1) | Add Comment
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